Title: Damian Flanagan
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Damian Flanagan




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記 事 |
記事 キョー ドー東北 (7.1.17)
私小説を超えた「門」(共 同通信、 2004年3月
世界文学のスーパースター夏目漱石(漱石全集、月報21、2003年12月
文豪•漱石は世界レベル(日本経済新聞、2003年10月10日)
守るべき「亀井静香的」な暖かさ(Newsweek、2003年9月24
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関連記事 ミシマの時間 (毎日新聞、2015年2月25日
夏 目漱石 英国人がどう読 んだの?(世界日報、2008年6月29日
「倫敦塔」の英訳本を母国で出版 (毎日新 聞、2005年4月13日)
英国で漱石短編集出版 (神 戸新聞、2005年1月25日
英語で読むロンドンの漱石 ダミアン• フラナガン氏インタビュー(英国ニュースダイジェスト、2005年1月20日)  
英国人のすぐれた漱石論 (奈良新聞、2003年12月21日)
漱石のメジャーデビューは… (産経新聞、2003年12月13日
気鋭の肖像―文芸評論家ダミアン •フラナガン (神戸新聞、2003年 12月9日
訪問 ダミアン •フラナガンさん (北海道新聞、2003年 10月10日
漱石の魅力を日本人に (読売新聞ヨーロッパ版、2003年9月9日)
漱石はトルストイらをしのぐ小説の王様です (毎日新聞、2003年7月21日)
漱石のなぞに新説を唱える (中日新聞、2003年7月20日)


キョー ドー東北
7.1.17



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2003.9.24©NEWSWEEK 
守るべき「亀井静香的」な温かさ


視点 日本の有権者が待ったなしの改革を求める気持ちはわかるだが欧米のように、すべてを無駄と切り捨てることが必要なのか

 10月、私がひと夏を過ごしたイギリスから戻ってくるころには、自民党総裁選は終わり、日本はさらなる改革に踏み出しているだろう。裏取引や利権体質、 派閥といった自民党の悪しき伝統を受け継ぐ亀井静香・前政調会長ら保守派の候補は、まちがいなく敗れ去っているはずだ。
 世界第2位の経済大国の国民が求めているのは、待ったなしの改革だ。だが果たして、日本のすべてを変えてしまう必要があるのだろうか。
 関西国際空港に到着し、西宮まで電車に乗ると、古びた建物やむき出しの電線といった灰色の風景が続く。だが緑豊かで広いイギリスの家から、なんの変哲も ない日本の郊外の窮屈なアパートに戻ると、私の心は浮き浮きしてくる。
 私はこの10年ほど、イギリスと日本を行き来する生活を続けてきた。家の近所でママチャリを乗り回したり、商店街をぶらぶらしたり、時刻表どおり動く電 車で大阪に繰り出したり。こうしたすべてが日本における生活のささやかな楽しみとなり、決して飽きることはない。
 それ以上に楽しみなのが理髪店だ。行きつけの理髪店では、シャンプーをしてから髪をカットし、ひげを剃り、蒸しタオルを顔にのせ、肩までもんでくれる。 機械的に髪を切るだけのイギリスの理髪店とは大違いだ。
 もちろん、これは日本の芸術でも伝統文化でもない。だがこの手の日常のささやかな喜びは、日本に住む多くの欧米人にとってこのうえなく魅力的に映る。
 大半の欧米諸国では、コスト効率を追求したせいで、こうした喜びが失われてしまった。イギリスのガソリンスタンドでは、従業員が走り寄って窓をふいてく れることなどない。店員もタクシーの運転手も無愛想だし、夜道を歩くのも安全とは言えない。
 店員の顧客への気遣いや自治団体の市民サービス、信頼のおける公共交通機関……。これらを「無駄」と呼 び、切り捨てる欧米式改革を行うことで短期経済見通しが回復するというなら、日本にはそんな改革など必要ないだろう。
 欧米では、車や大渋滞、巨大なショッピングセンター抜きの郊外生活などありえない。母親が自転車の後ろに子供を乗せ、前のかごに買い物袋を入れて、近所 を楽しそうに走り回る光景を目にすることはできない。


地域社会のもろい日常
 亀井は確かに、古い自民党の代表かもしれない。だが地域社会に欠かせない零細な商店を守ろうという彼の主張は、まちがっているのだろうか。
 私が、エズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』などの日本論を読んだのは、まだケンブリッジ大学の学生だった15年前のことだ。これらの 本に描かれた日本は、まるでスーパーマンの国だった。企業も役所も市民に優しい。国家は、近視眼的で非情な欧米社会よりも将来をしっかり見据えている- -。
 だが89年に株価が下落を始めると、状況は逆転した。「失われた10年」を経た今では、日本の社会と行政システムすべてが根本的にまちがっているように もみえる。
 とはいえ、エコノミストはすぐに自説を変えるものだ。ほんの数年前まで、社会の結束力を高めるとして終身雇用制度を称賛していた人々が、今では若い才能 を抑えつけ、労働の流動性を阻害する要因だと述べている。社会の先見性を表すとされた公共事業も、現在は途方もない税金の無駄使いという位置づけだ。
 言うことがころころ変わっても、エコノミストの名声に大して傷はつかない。だが、地域社会のかけがえのない日常生活は脆弱だ。地元の商店やサービス業者 が、コストを厳しく削減した大型店の攻撃に突然さらされれば、壊滅的な影響を受けかねない。


日本が直面する真の危機
 経済不振と国際社会での信用失墜を招いたさまざまな要因を一掃したいという、日本の有権者の気持ちはわかる。それに、改革は今に始まったものではない。 19世紀半ばに西洋に門戸を開いて以来、日本は常に国際情勢の変化に応じて変化を遂げてきた。
 日本が直面する本当の危機とは、日本経済の再生を求める欧米諸国の圧力に屈し、日本的な生活を破壊するような政策を進めることかもしれない。日本を欧米 のように変える必要がどこにあるだろう。
(筆者は兵庫県西宮市に在住。著書に『日本人が知らない夏目漱石』がある)。


ダミアン・フラナガン(日本文学研究者)


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「日 本人が知らない夏目漱石」を書いた ダミアン・フラナガンさん

 「英国じゃ考えられない変な題名」。ケンブリッジ大で日本学を専攻していた一九八七年、夏目漱石の「吾輩(わがはい)は猫である」の英訳本「アイ・ア ム・ア・キャット」を手にした時の印象だ。それが漱石との出会いだった。

 ネコの視点から広がる初体験の世界、幅広い話題に織り交ぜられたユーモアと風刺…。「物事を多方面から考えさせられた。独創力が あって面白い」。漱石に魅了された理由を流ちょうな日本語で語る。

 それからケンブリッジ大と神戸大などで十六年間、漱石の研究を続けた。しかし、自分が納得する漱石論が見つからず、自ら執筆を思い立った。

 取り上げたのは「門」と「三四郎」。「門」は、漱石が否定したとされる十九世紀のドイツの哲学者、ニーチェから、実は影響を受けたのではないか。「三四 郎」で登場する奇怪な言葉「ストレイシープ」(迷羊)は、十九世紀の英画家、ウィリアム・ホルマン・ハントの絵画「雇われの羊飼い」からヒントを得たので はないか。新説を掲げて漱石の謎に挑む。

「ニーチェが影響」と新説

 執筆中、「雇われの羊飼い」は自宅のある英国の中部都市、マンチェスターの美術館に所蔵されていることを知った。「研究の行き着く先が故郷だったなんて 皮肉なもの」とエピソードも紹介する。

 漱石は一九○○年から約二年間、ロンドンに滞在したが、英国では三島由紀夫や川端康成の作品の方が知られている。英国人が日本の小説に期待する「切腹」 や「芸者」などを題材にしているからだという。

 「でも、漱石の世界の方が広がりがあり、思想も豊か。シェークスピアと並ぶ偉大な作家だ」と漱石への思い入れは強い。同時に「英国人にもっと漱石を知っ てもらいたい。日本も漱石の素晴らしさを世界に伝えてほしい」と願い、日本語による二作目の執筆のほか、「倫敦(ろんどん)塔」など英国にちなんだ作品の 英訳を目指す。

 関西が大好き。神戸大大学院在学中、阪神大震災により自宅が半壊したとき、お互いが助け合う関西の人情に触れたからだ。本の執筆も大阪のインターネッ ト・カフェで、店員からパソコンの使い方を教わりながら四年間かけて仕上げた。「そのお礼に真っ先に本を届けました」と笑顔を見せる。

 英国と兵庫県西宮市を行き来しながら研究を続ける。文学博士。独身、三十四歳。

(世界思想社 二六○○円)

ロンドン支局 小林巧

 
Copyright(c) The Hokkaido Shimbun Press. 

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文芸評論家 ダミア ン・フラナガン 今、本当の漱石が現れる

(掲載日:2003/12/09)

百年前。名もなき日本人学者が渡英し、文学を学んだ。約一世紀を経て、日本の「国民的作家」になった彼について学ぶため、イギリス人青年が神戸を訪れる。

「日本人が知らない夏目漱石」(世界思想社)。挑発的なタイトルの漱石論を、この夏発表した。「『門』にはニーチェ思想の影響が強い」「『三四郎』の重要 なテーマ『ストレイシープ(迷羊)』は、十九世紀英国の画家ホルマン・ハントの『雇われの羊飼い』から想を得た」…。確かに、日本 の研究者 にはなかった視点から、次々に新説を唱える。

「漱石と西洋のかかわりは深いのに、日本の評論家はあくまで保守的な、日本的な価値観の持ち主として、彼をとらえたがる。そんな国家主義は、漱石が最も 嫌ったものなのに」

 教科書に漱石作品が載らなくなり、千円札からも姿を消そうとしている。日本人さえ漱石を忘れようとしている今。なぜ?

 「これでやっと、日本の『国民的作家』なんていう呪縛(じゆばく)から解放される。本当の漱石が今こそ、再び僕らの前に現れるんですよ」

漱石との出合いは十九歳。「吾輩は猫である」でなく、「I Am a Cat」。そこから出発した論理は、明快だ。

 高校時代は理系志望。必修は物理、数学、化学だったが、なぜか学年で四人の日本語クラスも取っていた。「軽い気持ちで選んだけれど、そのイギリス人教師 は日本を情熱的に愛してた。今の僕があるのは先生のおかげ」

 ケンブリッジ大進学後も物理学を専攻するが、肌が合わず東洋学部へ。漱石を知る。「漱石はシェークスピアに匹敵する文豪だ」。その確信を証明するため、 さらに英文学部へ転部。だが世界文学に精通した教授さえ、漱石の名を知らなかった。

 「漱石が欧米で読まれない理由は二つ。第一に、三島や谷崎のような分かりやすい『日本らしさ』がない。第二は、日本のPR不足。イギリスは数世紀もの宣 伝を通して、シェークスピアを世界的文豪にしたんだから」

 東西を超えた宇宙観ゆえ、欧米から無視されてきた漱石。だがそれゆえに、時代を超える力を持つはず…。

書斎はインターネットカフェ。「日本人が知らない夏目漱石」も、4年通って書き上げた。「家にもパソコンはあるけれど、こもりきりじゃアイデアは浮かばな いからね」

 神戸大大学院に留学したのは10年前。震災では、六甲の自宅が半壊した。「関東には大地震が来ると聞いてこっちに来たのに。でもあのとき、人の温かさを 知った」。その後、甲子園球場近くに引っ越した。活気あふれる町に、人に惚(ほ)れこんでいる。「もうすっかり関西人です」

 来春には「倫敦塔」「カーライル博物館」など、イギリス関連の漱石の小品を英訳出版する予定。その次には、より個人的な立場から漱石についてつづった読 み物を。さらに、日本で評価されていないイギリス人作家のことも伝えたい。自分の手でフィクションも書きたい…。

 「日本と英語圏の文学をつなぎたい。『国文学』なんて壁、飛び越えて」(平松正子)

ダミアン・フラナガン1969年、英国・マンチェスター生まれ。ケンブリッジ大、国際基督教大、神戸大博士課程で学ぶ。現在は西宮市とマンチェスターの自 宅を行き来しながら執筆活動中。

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